かつて少女は“勇者”と呼ばれ、賞賛された。そして“化け物”と呼ばれ、恐怖された。魔物を殲滅させるまで、少女の足は止まらない。殺して殺して殺し尽くす――それが、勇者の宿命。過去を失い、新たな仲間を得ても、少女の目は魔物を追い続ける。理由は、ただひとつ。「私は、勇者だから」。
七沢またり
「死神を食べた少女」等、戦記物で有名なダークファンタジー作家、七沢またり氏による小説です。
七沢またり氏はダークで陰惨な世界観作りや苛烈な戦闘・心理描写が上手で、ハラハラドキドキしながら作品に没入させてくれます。一番有名なのは「死神を食べた少女」だと思いますが、私は今回紹介している「勇者、或いは化物と呼ばれた少女」が最も好きです(実は以前紹介してたんですが、ブログをはじめてまもなくの拙い紹介をしていました)
それは、この小説が勇者である少女の心理描写面を濃密に描いていることです。勇者としての苦痛、懊悩、諦観、絶望。全てが凝縮されているからです。それでも少女は諦めず、勇者としての役割を全うする。本当に救われてほしいと願ってしまいます。
この小説はweb版を無料で読むことはできます。
しかし、書籍版のほうが圧倒的に優れていて完成されています。3、4話試しに読んで気に入ったなら絶対に書籍版を見るべきです。
web版はあくまで原案だと言い切れるくらい、完成度が違います。いえ、七沢またり氏の力量が極めて高いため、web版でも満足感はあります。でも書籍と比べると、どうしても足りないナニカがあります。
もともと、エンディングが違うとレビューを見て知り、確かに思っていたのと違いました。エンディングが違うというのはあっていたんですが、中盤以降の展開がガラッと変わっていました。しかも嬉しい変わり方です。
書籍のほうがよりキャラが光ります。主人公である、苦痛に塗れた勇者はもちろんのこと、勇者と共に責任を担う戦士。悲願を叶えた魔法使い。そして妄執を振り切った学士。一癖も二癖もあるんですが、憎めません。書籍版は掛け合いがよりよく描かれてます。
敵キャラも痺れるくらい良いです。みんな道を踏み外した邪悪そのものなんですが、堕ちた動機がよく描かれ、偏執的なまでの愛が表現され、狂おしいほどの激情が込められてます。何より彼らに対する勇者の台詞がクールでカッコよくて、救いなんです。勇者は一言、彼らを誉めるんですよね。何処にも褒められる要素なんてないはずなのに、自分も被害を被っているのに、彼らが命を懸けてまで極めた技術に対して、勇者は誉める。これが救いでなくて何なのでしょうか。
勇者と魔王の物語が好きな人、ダークファンタジー好きな人、暗い話が好きな人はぜひ読んでください。絶対に面白いです。
以下蛇足ですが、web版を記憶されている読者もいるかもしれませんので、違いをもう少し正確に書いておきます。ネタバレですので次のページに記載しておきます。
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