以前紹介した「勇者一行の心理カウンセラー」が完結されました。勇者物語にカウンセラーとしての理念が盛り込まれた、傑作でした。英雄譚としての面白さと、カウンセリング技術による救いと苦悩をこれでもかというくらい見せつけられてしまいました。あまりにも感動したため皆さまにも読んでいただきたく、改めて紹介させていただきます。
主人公、天野星乃は現代から転移したカウンセラーです。最初見向きもされていなかったようですが、「賢者」によって可能性を見出され、勇者たちのカウンセラーとして活動していきます。
考えてみれば当然ですが、勇者も人の子です。魔族との血みどろの戦いに、悩まないわけはありません。
それは、勇者の仲間たちにも当てはまります。「魔法使い」「聖職者」「戦士」……彼らには彼らの物語があり、苦しみがあります。主人公は彼らに寄り添い、その苦しみを和らげようと活動します。
彼らが悩んで歩んできた道は険しく、私も見ていて苦しくなりました。
でも、苦しみだけじゃないんです。私とともに険しい道を見た、カウンセラー・天野星野の対応といったら、もう。
解決するわけでは、ないんです。助言では、ないんです。これこそが心理士の理想なのでしょう。私は感動して泣かされました。
この小説が恐ろしいのは、英雄譚としての良さも織り交ぜてくるところです。
勇者たちは魔族と戦うのですが、勝利とも呼べないようなか細い勝ちを拾ったり、むしろ戦略的敗北を喫したり、全く思い通りにいきません。
当然、死者や戦線離脱者が出てしまいます。常に手詰まりで、魔族側の脅威がヒシヒシと感じられます。
そんな勇者たちを最も支えているのが、カウンセラーである天野星野です。選択を否定せず、肯定もせず、彼らの本当の望みを見つめさせる。何の力も持たない者が、最も強大な者に成り代わっていました。
後に仲間になる、老魔術師は天野星野にこう言っています。
「覚えておるかね。先の遠征前、わしはあんたが奴らの死相を消しているのかと尋ねたな」
「ああ」
星乃は苦笑する。
「残念ながら、私はただのパンピーで――」
「あんたじゃった」
「え?」
「あんたがわしらの死相を消しておる」
「勇者一行の心理カウンセラー」第42話より引用
こうして勇者一行は、どれだけ打ちのめされたとしても、艱難辛苦に向かっていきます。
足元を見たとしてもいいんです。前を向かなくてもよいのです。自分がしたいことは何か、星野が気付かせてくれるんです。
特に、最後のシーンが感動的でした。集大成をこれでもかと見せつけてくれます。どんどんどんどん面白くなる、とんでもない作品でした。
あと一つだけ、言わせてください。魔族側の話もよく練り込まれていて素晴らしかったです。強くて傲慢で臆病で。予想のつかない展開に痺れました。
傑作中の傑作を読ませていただきました。本当にありがとうございました。皆さまもぜひお読みください。非常に、非常にオススメです。
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