ファンタジーの世界でも戦争は泥臭く醜いものでした
まさきたま
トウリ・ノエル二等衛生兵。彼女は回復魔法への適性を見出され、生まれ育った孤児院への資金援助のため軍に志願した。しかし魔法の訓練も受けないまま、トウリは最も過酷な戦闘が繰り広げられている「西部戦線」の突撃部隊へと配属されてしまう。彼女に与えられた任務は戦線のエースであるガーバックの専属衛生兵となり、絶対に彼を死なせないようにすること。けれど最強の兵士と名高いガーバックは部下を見殺しにしてでも戦果を上げる最低の指揮官でもあった! 理不尽な命令と暴力の前にトウリは日々疲弊していく。それでも彼女はただ生き残るために奮闘するのだが――。
「2022年おすすめ小説10選」の第1位「TS衛生兵さんの成り上がり」の書籍版です。
私は当然、購入して読みました。そして、改めて滅茶苦茶面白いと思いました。本当に色んな魅力が詰まっています。
その中でも「戦争の過酷さ」と「主人公の成長」がこの小説を唯一無二のものとしています。
魔法というファンタジー要素もありながら、銃弾も飛び交う過酷な戦場。そんな世界で主人公のトウリは新兵として突撃部隊に配属されます。
突撃部隊の役目が本当に過酷で、弾の嵐の中を走って塹壕攻略に臨んだり、塹壕を守るために敵を待ち構えたり、隊員が主人公の近くでバタバタと死んでいきます。
主人公はたやすく人が死ぬ環境にドン引きしてる中、ベテラン兵や、銃弾すら切り飛ばせるエース級のガーバック小隊長は意に介さず、塹壕攻略成功をただ喜んでいます。周囲とのギャップに、主人公は度々思い悩むことになります。
さらに衛生兵としての役目もあるため、戦闘しない日は野戦病院で治療し続けます。
主人公は「癒」という魔法が使え、傷を治すことができますが万能ではありません。
使用回数にも制限があり、戦闘があった翌日は、寝る暇もないほど医療行為に専念しなければなりません。戦場の不毛さ、過酷さがよく伝わってきます。
こんな地獄の環境で、トウリがだんだんと腕を上げ、活躍していきます。
はじめは突撃部隊の小隊長、ガーバックに扱かれる毎日でした。勝手に仲間を治療したから折檻、自身に報告していない魔法を使ったから折檻……理不尽の数々をその身に受けます。
ただ段々と順応していき、いつの間にか他の部隊員と遜色なく動けるようになり、致命傷を負った仲間を救うことができるようになります。
話が進むにつれて、主人公がどう活躍するのか楽しみになること間違いありません。
web版と書籍版の違いについても触れておきます。web版では本人による回想、といった手法で過去を振り返っていましたが、書籍では、ある人物が戦後にトウリの手記を読んでいる、という手法で過去を振り返っています。
戦後目線で語られる話も好きですし、「ある人物」も意外な人で驚きました。次巻でどう展開されていくのか、期待します。
また挿絵もよかったです。主人公は可愛らしいのはもちろん、ガーバック小隊長が良い味出ています。正に戦闘狂、といった容貌ですごくマッチしています。
他にも魅力的なキャラがたくさん出てきたり、TSしたことによる女性的な側面であったり、いろんな良さがあります。ぜひその手に取ってお読みください。非常におすすめです。
コメント