
父の死により地方の造園会社を引き継いだ男は、お飾り社長の無力感に心底嫌気がさして自死を選んだ。
そんな彼が何の因果か異世界に転生し、またお飾り社長(国王)をやるはめに。収支は真っ赤、国内は階級闘争寸前、周囲は敵国ばかり。独身の彼を取り巻く見目麗しの令嬢たちだけが彼の癒やし…のはずもなく。
使える現代知識なし、じんわり近づく革命の気配と始終暗闘ギスギス私生活を乗り切るべく、彼は今日も玉座で物言わぬ置物になる。
本格政治ファンタジー、総文量七十二万文字の大作です。めっちゃくちゃ面白くて尖っていて鬱蒼としていて、素晴らしい作品だったので紹介致します。
「中世ベースの世界で国王となった主人公は崩壊直前の国を維持しようと奮闘する」という、あらすじだけを見るだけならよくある設定に見えるんですが、実態は違います。何もかもが現実に即しているんです。
交渉一つでも何か譲歩を迫られる。国王として舐められないように見せながら臣下を立てる。正解のない政に翻弄される。前世と今世の倫理観の違いに苦しむ。そして国王ゆえの孤独から来る絶望と不信を感じる。
ホントに苦渋に満ちた道中を歩んでおります。これこそが国の末期なんだろうなあ……と、読んでいて震えてしまいます。恐ろしき小説です。
ただ、この小説は恐ろしさだけではありません。希望もあるんです。
それは臣下の存在です。王の頭脳を、王の手腕を正しく評価しているのは側近たちでした。王の持つ、誰も損をさせない微細な調整力は神懸ったものだからです。
例えるならば、すぐ傾く壊れた天秤に極小の分銅を置き、バランスを保つような……。王の采配は貴族・市民問わず、多数を救うことを目指していました。

王のためではなく国のために。王権神授説真っただ中の世界において、この考えは異常でした。臣下も当然そう思うんですが、自らを省みずに行動していく様に、段々と信頼を寄せるようになります。
この物語は、主人公である王の成長物語でもあります。
前述だけを見ると、国王が先頭に立ち改革に乗り上げているかと思われますが、実態は違います。
ほとんどが臣下任せで王自身はほとんど主張しないようにしています。それは前世での社長時代の経験からです。
二代目として無能として扱われた経験から自身に全てを掌握する力はないと悟っているんです。
物語の前半では、自身を信じず、臣下を信じず、それでも信じたふりをして政務に影響が出ないようにしました。
ただそんなスタンスがいつまでも続くわけがなく、王は心を病んでいきます。ただある出来事が起こり、王は前世の自分を振り切り、真の王として立ち上がります。
他にも哲学的な思想の部分であったり真の友とも言える存在だったり、言いたいことは色々あるんですが、ぜひ読んでみてください。本当にオススメする一作です。最後までお読みいただきありがとうございました。
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