2年半の沈黙を破り、満を持して世に放つ貴志祐介ワールド全開の作品集。
貴志 祐介
最新SF「赤い雨」は、パンデミックが起きたときあらわになる人間の本性を描いた、今読むべき一作。
表題作は、著者自身が「ここまで強いテンションを維持した作品は、書いたことがありません」と断言する手に汗握るミステリー。
人間の愚かさが絶望で世界を塗りつぶすとき、希望が一筋の光となって未来を照らし出す。
ホラー、SF要素を加えた異色な世界構築に定評のある、ミステリ作家貴志祐介氏による短編集です。四作「夜の記憶」「呪文」「罪人の選択」「赤い雨」が収録されています。
貴志祐介氏らしい「本当にあり得るかもしれない」と思わせる説得力を持って、読者は身近な恐怖を感じながら作中に入り込んでいきます。
「夜の記憶」は深海生物と人間の2視点の話です。一見別々に見える二つがなぜ同時並行で語られるのか、段々と判明していきます。不気味な影がところどころ散りばめられており、不安になりながら考えさせられるこの小説は貴志祐介氏らしさが満載でした。
「呪文」は宗教と呪いの話です。四作のうちでは最もホラー寄りで、気味が悪く後味もよくありません。神を否定せざるを得なかった村民たちの嘆きがよく伝わり、こちらも非常に面白かったです。
「罪人の選択」は正直、四作のうちで最も平凡でした。迫られた選択肢を罪人がどう選ぶか、という話です。結局人間は自分視点でしか考えられないという陳腐な結論で、トリックも何もないため、普通でした。
「赤い雨」は地上を覆いつくした生物の話です。今後あり得るかもしれない話だと、ある意味一番恐ろしい話だと感じました。またそれだけではなく、スラムと貴族という対立構造、良心と悪意の対比、そして読後感の良さが魅力的な話でした。
どれも一つで一冊書けるくらいの内容の濃さがあり、満足感の高い本でした。ホラー好き、SF好きにはオススメします。
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