「ある馬が記憶に残る瞬間」。マイナー血統・見た目に目立つところのない鹿毛の馬体、一頭の地味な牝馬ナギノシーグラスの競走馬生を、競馬を観戦する一般人視点で新馬戦から描いていく連作短編。どこにでもいる人々が、ナギノシーグラスという競走馬を応援したり応援しなかったり、馬券の買い目に入れたり自分と重ねたりする。
降級制度以前のデータをもとに構想しているため、時代設定上、降級制度が存在します。条件戦呼称も旧呼称としています。
石見千沙/ナガトヤ – 小説家になろう
観客視点で一匹の競走馬を追う、架空競馬ものです。群像劇となっており、いろいろな観客視点で話が進んでいきます。
一勝するまでに十試合もかかった、マイナー血統のナギノシーグラスという馬を追っていきます。常に燻っているかのような馬で、長所短所があまりはっきりせず惜敗することが多く、つい応援してしまい、観客たちに感情移入してしまいます。この馬に、勝って欲しいと願いながら読み切りました。
勝利を手繰り寄せようとする騎手、陣営の試行錯誤がよく伝わってきました。マイル、中長距離と色んな距離で戦わせてみたり先行差し追い込み、積極策に消極策、全ての戦法を試していました。どのレースも全く違った展開で、ハラハラしながらナギノシーグラスを応援してしまいました。
全く世間からは評価されておらず、騎手の乗り代わりも激しかったのですが、最終的には一人の騎手が乗り続けるようになりました。騎手も馬を勝たせたい一心で乗っており、人馬一体となりレースに挑むようになっていきました。話が進めば進むほど熱い展開で、涙が零れました。
それぞれの観客たちのストーリーも非常によかったです。この競走馬の父を応援していた者や競馬好きな夫を持つ家族など、さまざまな視点からナギノシーグラスを見ていきます。一番印象的だったのが、剣道を志す少女でした。ナギノシーグラスをどうしても実力者には叶わない自分に似ていると感じ、応援します。最終的にはナギノシーグラスの頑張っている姿を見て奮起し、格上相手に勝利するというストーリーがとても気持ちよかったです。
競馬が好きになれる、情熱的な一作でした。非常におすすめです。
※なろうファンDBレビュー獲得作品リストから見つけました。使わせていただきありがとうございました。
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