鱗のあるエイのような生き物に、燃える枯れ木のようなもの。目の前にいる異形の者たちは〈別の視点〉から見た、まぎれもない人間の姿だ。その奇怪ないでたちは彼らの性質を示していた。それは無数にある〈世界の真実〉を自分の想念により再構築したヴィジョン。視点の角度を変える技『旋視』で見ることができる。草薙遼は「想師」と呼ばれる特殊能力者だった──。
狂気太郎
想師として裏の仕事を請け負う草薙のところに、ある日「娘を犯して殺したヤクザをできる限り残酷に殺してほしい」との依頼が舞い込む。クソ野郎どもには死の鉄槌を下さねばならない。意識を解き放つことで、より強力な想念世界から現実に干渉できる『転視』を使い、ヤクザの組事務所に乗り込む草薙。だがそこで待っていたのは、破壊と殺戮の想師・九鬼凍刃《くきとうじん》との出会いだった。数千の死人を従える魔術師や、知識欲に魂を捧げたカバリストとの対決を経て、草薙は血塗られた宿命の相手、九鬼との世界の命運をかけた壮絶な殺し合いに挑む……
スプラッターホラーアクションの巨匠、狂気太郎氏によるスプラッタ―サスペンス小説です。
世界観が抜群に良く、ストーリーが尖っていて狂気太郎節が好きな人にはとてもおすすめです。
あなたは円柱をご存じでしょうか?
円柱は上から見ると円、横から見ると長方形に見えます。視点によって見え方が違うわけですね。
では我々が住んでいる世界はどうなんでしょうか?一見、みんな同じ世界を見ていると思われがちですが、本当にそうなんでしょうか?
実は他者が見ている世界が実際にどう見えているか、誰にも分かりようがありません。私がりんごだとして見ているものが、他者はみかんとして見ているものかもしれません。それでも何ら不都合はおきません。
そもそも本当は私以外全員ロボットで何も見えておらず、私がりんごだと言ったから、反射的にりんごと返しているだけかもしれません(これを哲学的ゾンビと言います)
ただ「自分自身が見たものは真実である」ということは間違いありません。この小説「想師」はこれらの哲学的概念をうまく取り入れた小説です(また多世界解釈も含まれていると思います)
世界の全ては、見方によって変わります。りんごも人も、幽霊も魔術も神さえも、見方によって変わります。見方が変えれば性質も変わります。りんごをみかんとして見て味が変わったり、凶悪な悪霊も、弱い面を見つけて変化させることによりやっつけたり、神に等しい存在も、上手く世界を見て対処します。
主人公は「想師」という職につく何でも屋のような存在で、他者の治療から殺しまで、幅広く活動しています。堅物で善性が強い一方、「想師」としての能力に苦しんでおり自己嫌悪感が強いです。
他にも狂気太郎氏らしく味のある魅力的なキャラがいっぱい登場します。
その中でも私が一番好きなのはカバラ魔術師のゲール・ブライトです。知識欲が極めて強く、自分が殺されてもなお、新しい現象が見れて喜んでいる様は、異常としか言いようがありません。また、味方でも敵でもなく、こちらを徹底的に観察し世界の根源を追う姿が狂気的でたまりません。
独特な世界観を構築することに長けた狂気太郎氏らしい一作となっております。とてもおすすめですので是非お読みください。
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